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番から71年作の第15番までが、ことごとく価値あるものとして尊重されている事実を特筆せねばならない。こんにち、人びとの嗜好の上からも「マーラー以後の交響曲の第一人者」として広く認識されるショスタコーヴィチだが、中でも最もよく聴かれ、ファンの多い作品はと言えば、〈革命〉のニックネームを持つ、この第5番の交響曲にほかならない。1936年と言えば第二次世界大戦の前夜、ソ連ではスターリン体制がますます固められて粛清の嵐が吹くとともに、文化、芸術への権力者側からの干渉も目立ってきた頃である。この年、ショスタコーヴィチは、共産党機関誌プラウダの紙面で、作風が"西欧かぶれで社会主義の理念に沿っていない"ことを非難された。すでに4篇の交響曲を書き、若い楽界をリードする立場にあったショスタコーヴィチは、その公的な批判に答える形で、つぎの大作を発表せねばならぬ立場に立たされた。そのような状況のもとに書かれたのが、この第5番ニ短調、作品47の交響曲なのである。曲の初演は1937年11月2日、ソヴィエト革命20周年記念日に、エヴゲニ・ムラヴィンスキー(当時31歳)の指揮するレニングラード・フィルハーモニーの演奏会において行われ、聴衆、批評家、そして政府のお偉方にもひとしく感動をもって受け止められた。
いっぽう、西欧からはショスタコーヴィチが共産政権の圧力に屈して迎合的な作品を書いたと、皮肉な目で見やる人びとも多かったという。例の「ショスタコーヴィチの証言」をはじめ、近年明らかにされたところでは、ショスタコーヴィチはけっして安易に権力におもねったわけではなく、非常にむずかしい立場に身を置きながら、なんとかして己れの真実を貫きたいと、つねに心を砕いた作曲家であった。この第5交響曲は、4つの楽章を通じて、人間が苦悩を経、やがてそれを克服して歓喜に至るというベートーベェン的な思念を込めた作品だとされる。それは事実であっても、その場合、主人公はスターリンではないどころかソ違の社会主義でもなく、苦悩する自我すなわちショスタコーヴィチ本人か、さもなければ自分と同じ悩みを抱くロシアの人びとでなければならない。こんにち、この交響曲が感動をこめて演奏され、かつ聴かれるとすれば、上のように考えねばならないのは必至であろう。曲は、つぎのように進む。
第1楽章 モデラート〜アレグロ・ノン・トロッボ
3つの主題(モットー的に現れる序奏主題を合めて)をそなえたソナタ形式の楽章。流麗な弦の旋律は、つねにある暗示をおびている。
第2楽章 アレグレットむしろ古典的なスケルツォの形をとるが、一種皮肉なユーモアを漂わせている。
第3楽章 ラルゴ 息の長い哀歌風の楽章で、金管楽器を使わず、弦を8部に分けて繊細な効果をかもし出している。ハープとチェレスタの響きも趣を添える。
第4楽章 アレグロ・ノン・トロッボ荒々しいまでの力をおびた「生きる喜び」の楽章だが、上記のように複雑であったショスタコーヴィチの胸中を思うとき、さまざまな解釈が可能であろう。
(はまだじろう音楽評論家)

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